4.4 システム化技術
4.4.1 概要 生命システムは、自己組織化の原理を巧みに利用している。散逸構造に見られる自己組織化は、平衡近くでの安定化(ゆらぎの消滅)と平衡から遠く離れた非平衡状態で作用する複雑な構造の形成という、2つのメカニズムによってダイナミックな自己保存と自己創出を繰り返す。自己組織化によって生み出される散逸構造は、エネルギー流を組織化した物質の構造とも、物質の交換(流れ)を組織化したエネルギーの構造とも捉えることができる(北森・北村,1996)。 物理現象における自己組織化は、ある形に配列したり、相転移することによって自由エネルギーが極小になるとか、エントロピーが極大になるとか、あるいはエントロピー生成が極小になるといった原理によって進行する。このようなある物理量が極小あるいは極大の状態に落ち着くダイナミクスは、変分原理でほとんど理解することができる。しかし、生命現象における自己組織化は、もはや物理的な変分原理だけでは手に負えない。自己複製システム固有の機能は、物理的エネルギーに基づく説明に加えて、遺伝子、神経による遠隔の組織との信号伝達など、システムをより強く支配する情報因子を導入せざるを得ない(沢田,1993)。物質およびエネルギーの流れに対して、第3の制御因子として情報が登場してくるのである(図4−22)。 情報システムの理論において、エントロピー生産の法則に対応する法則は、アシュビーによって提唱された「最小多様度の法則」である(今田,1986)。アシュビーは、情報理論をサイバネティクスに応用し、システムが変化する環境に対処するには、環境の多様性と同等かそれ以上の多様性を持たなければならないことを見出した。アシュビーの法則によれば、生体は内部的な多様性を増しつつ環境との適応を図る図式が浮かび上ってくる。散逸構造の形成と維持が、情報の伝達とどのように結合されるのか、その仕組について考察するのが本節の狙いである。 4.4.2 合成−分解反応 (1) DNA情報によるタンパク質の合成 ワトソンとクリックのDNA二重らせんの発見によって遺伝子の複製、形質発現の解明は画期的な進歩を遂げた。生命は細胞の中でDNAの情報に従って、すなわちDNA分子上の塩基配列に対応するように、アミノ酸配列の決まったタンパク質分子が作られる。この過程で情報はRNA分子上の塩基配列に移される。これを遺伝情報の転写と呼ぶ(Muller,1995)。 DNA分子の情報に基づいてタンパク質分子の作られる過程については現在までにその骨組が完全に解明されている。DNA分子上に4種の塩基A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)が一次元に並んでいる。DNA分子
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